資本金はいくらにすればよいのでしょうか?
資本金の額をいくらにすべきかを決めるにあたり、重要な要素(ファクター)がいくつかあります。
それらの重要なファクターから資本金の上限と下限を画した後、その範囲で資本金の額を個別具体的に決定するアプローチが有効です。
そこで、まずは資本金の上限を決めることになりますが、資本金となるのは、設立時に会社に払い込まれた金銭の額と、現物出資された財産の額です(会社法445条1項)。
したがって、発起人自らの手元資金と、発起人以外の出資者の資金に現物出資財産の評価額の合計額を算出することで資本金の上限が決まります。
(例)発起人の手元資金700万円+発起人以外の出資者の資金300万円+現物出資財産(中古自動車)の評価額200万円
=1,200万円(が資本金の上限となる。)
次に、資本金の下限ですが、会社の事業計画(ビジネスプラン)から資本金の下限が導かれることになります。
つまり、次に掲げるとおり、会社は何らかの経営目標を実現するために設立されますが、大海原を航海する船舶が海図と羅針盤を使うように、会社が経営目標に向かって真っすぐ進むためには資金計画を伴う事業計画(ビジネスプラン)を備える必要があります。
したがいまして、この事業計画に基づいて資金の計画をまとめることで、どのくらいの資本金を計上すれば正しく事業を運営できるかのラインが決まることになります。
資本金の額に応じて課される規制も、資本金を決める上での重要なファクターです。資本金の額に応じてどのような規制がなされるかは、次の図のとおりです。
上の図を見ると、例えば、一般建設業を営むのであれば資本金は500万円以上必要というように、会社が何を行うかという事業計画から、どの程度の資本金を積めばよいのか目安が分かります。
上の図を元に、実現したい事業計画ごとにいくらの資本金が必要かを表の形にまとめたのが下表です。この表を参照しながら、将来、自分の会社をどのようにしたいかのイメージを働かせつつ、資本金を最低限いくらにすべきかあたりをつけて下さい。
実現したい事業計画の内容 | 必要な資本金の額 |
---|---|
東証1部・東証2部に上場したい。 | 連結株主資本が10億円以上 |
会社法上の大会社となり、対外的信用をアップしたい。 ただし、(1)会計監査人設置義務、(2)監査役会または委員会設置義務、(3)内部統制システム体制整備義務、(4)PL公告義務、(5)連結計算書類作成義務あり。 |
最終の貸借対照表上の 資本金が5億円以上 |
中小企業に該当(製造業、建設業、運輸業その他) 税制面での優遇措置や中退共への加入できるメリットあり。 |
3億円以下 |
ジャスダックの上場基準 | 2億円以上 |
役員変更登記の登録免許税を10,000円に抑えたい。 | 1億円以下 (1億円超過すると30,000円) |
中小企業に該当(卸売業) 税制面での優遇措置や中退共への加入できるメリットあり。 |
1億円以下 |
中小企業に該当(小売業、サービス業) 税制面での優遇措置や中退共への加入できるメリットあり。 貸金業を行いたい(許可基準)。 |
5,000万円以下 |
旅行業(第1種)を行いたい(許可基準)。 | 3,000万円以上 |
一般労働者派遣業を行いたい(許可基準)。 | 2,000万円以上 |
消費税免税事業者として税金を節約したい。 | 1,000万円未満 |
旅行業(第2種)を行いたい(許可基準)。 | 700万円以上 |
一般建設業を行いたい(許可基準)。 有料職業紹介事業を行いたい(許可基準)。 |
500万円以上 |
旅行業(第3種)を行いたい(許可基準)。 | 300万円以上 |
会社を設立したい(最低資本金)。 | 1円以上 (資本金0円での設立は許されない) |
最初から元手となるお金があり余っているという会社は、ほぼありませんので、限りある資金でやり繰りすることになります。
一方、資本金は、会社設立後、自由に開業準備や運転資金に回すことができるお金になりますので、あまり少なすぎると、せっかく会社を立ち上げても、その後の運営ができなくなります。
そこで、安定した事業運営のためにも、初期費用+設立時から数か月(3か月~半年)程度の運転資金に相当する額を資本金として確保することが望ましいと言えるでしょう。
資本金を出資する際は、金銭(現金)以外の財産(不動産、自動車、パソコン、機械設備、有価証券、什器備品など)で出資することもできます。この方法を「現物出資」(げんぶつしゅっし)といいます。
手元に現金はあまり用意できないけれども、事業に使える資産は多くあるという場合には有効な資産の活用方法です。
ただし、現物出資をする場合、出資する財産の金額を正しく評価する必要あります。不当に高く評価した場合、正しい評価との間で不足する差額を発起人と設立時取締役が連帯して支払う責任を負うことになります。
そこで、後から不足額を支払うことにならないよう、現物出資をする際は、専門家である当センターに会社設立お任せいただくことをおすすめします。
なお、現物出資財産の総額が500万円を超える場合には、基本的に裁判所で選任された検査役に財産の評価をしてもらう必要が生じ、これに伴い費用と日数をロスすることになります。したがって、現物出資は、特に必要のない限り、検査役の調査が不要な500万円以下の範囲で行うのが無難です。
平成17年会社法改正により、最低資本金を1,000万円とする規制が撤廃されたため、資本金の額を1円とする「1円会社」を設立することができるようになりました。しかし、1円会社では運転資金を確保できないこと、および資本金が乏しく体力がない会社は社会的信用を得られないことから、(特別な理由がない限り)1円会社を設立することはおすすめできません。