近年、国内の労働力不足を補うため、外国人を雇用する企業が多くなり、外国人の社会保険加入の場面が急増してきました。
そのような企業からよく受けるのが、外国人も健康保険や厚生年金保険に加入する必要があるのかという質問です。
長年にわたって日本に滞在するつもりのない外国人にとっては、これらの保険料が掛け捨てになり無駄になるとの誤解から、加入に抵抗感があるケースが多いようです。
外国人も、日本人と同じく健康保険や厚生年金保険に加入する必要があるのが原則です。
抵抗感を示す外国人に対しては、(1)健康保険に加入しておけば万一のケガや病気の時も保険でカバーでき、保険料が無駄になるわけではないこと、(2)在留資格(ビザ)の更新の際に窓口で健康保険証(カード)の提示が求められるため、加入しておけばビザ更新に有利に働きうること等を説明して納得してもらいましょう。
また、厚生年金保険も健康保険とセットで加入する必要があります。
もっとも、ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリーの15カ国との間では社会保障協定が締結されています。
これらの国々の出身者で一時的(5年以内)に日本で働く外国人は、日本の厚生年金保険(および健康保険)への加入が免除されますので、そのことを説明して加入免除の手続を採ってください。
社会保障協定の締結国以外の出身者の場合、厚生年金への加入は免除されません。
もっとも、加入期間が6か月以上あれば、払い込んだ保険料の額に応じて脱退一時金が支給され、保険料の掛け捨てを防止することができます。
脱退一時金を受けるには次の要件を満たす必要があります。
日本国籍を持たないこと
厚生年金の加入期間が6か月以上あること
これまでに日本で年金を受ける権利を持ったことがないこと
日本国内に住所がないこと
上記 1 〜 4 を満たす外国人が、日本を出国した後2年以内に請求すれば、脱退一時金を受け取ることができます。
請求手続は、東京都杉並区の日本年金機構本部に脱退一時金裁定請求書を提出して行います。
エアメールでの手続も可能です。支給は外貨で送金されるのが一般的です。
脱退一時金の額は次の計算式から算出します。
平均標準報酬額×支給率{(保険料率×1/2)×被保険者期間月数に応じた数}
平均標準報酬額とは、加入期間中の各月の標準報酬月額と標準賞与額の合計額を総加入月数で割り、1ヶ月あたりの平均額に換算した額のことです。
また、支給率とは、厚生年金の保険料率に1/2を掛けたものに被保険者期間月数に応じた数(次表を参照)を乗じて算出します。
被保険者期間 |
掛ける数 |
---|---|
6月以上12月未満 |
6 |
12月以上18月未満 |
12 |
18月以上24月未満 |
18 |
24月以上30月未満 |
24 |
30月以上36月未満 |
30 |
36月以上 |
36 |
例として「年収360万円で2年間働いた外国人」のケースで見てみます。
毎月の給与…20万円
賞与(年2回)…各60万円
であれば、
標準報酬月額…20万円
標準賞与額…60万円
なので、
平均標準報酬額=(20万円×24ヶ月+60万円×4回)÷24ヶ月=300,000円
となります。すると脱退一時金は、
300,000円×(17.474%(2014年9月〜2015年8月の保険料率)×1/2)×24=629,064円
となります。
実際の送金額は、ここから源泉所得税が引かれますが、後日、還付申告をすることで取り戻すことができます。