年々、市場規模が膨らむIT業界ですが、その歴史は30年程度と浅いことから、労務管理の手法はまだまだ確立していないのが実情です。
この業界の特徴としては、人材に求められる技術・技能がすぐに変化するため、スキルやノウハウをタイムリーかつスピーディに仕事に活かせる人材が求められることが挙げられます。
そのため、就労する従業員にも①平均年齢が若く30代が中心である、②平均勤続年数が短く10年未満も少なくない、③技術に自信のある男性従業員が中心のことが多いという特徴があります。
上記の特徴から、IT業界では、仕事の経験は浅いものの、職人気質であり、マネジメントを行うことに消極的な人材が多く、量的・質的に企業内のマネジメント層が不足する傾向があります。
特に多数を占める開発系の人材は、自分の専門性を発揮する意欲が強い半面、周囲に無関心で、個を発揮できる仕事を行いたがる傾向があります。
この傾向が職場内でのコミュニケーション不足を生みやすくします。
また、開発業務やクリエイティブ業務の場合、時間が成果に直結するとは限らないため、労働時間に縛りをかけない専門業務型裁量労働制が採られることが多く、長時間労働により生活が不規則になりがちです。
このように変化の激しい業界では、会社から求められる成果や職務内容も毎年のように変化します。
そこで、求められる成果水準を毎年の業績目標とする目標管理制度を採用し、従業員の仕事への意欲が会社の業績へ結びつく仕組みを整えるのが望ましいといえます。市場環境の変化が大きい以上、給与の支給総額が毎年大きく変動する人事制度を採ることにも合理性があります。
他方、マネジメント層の育成につなげるため、マネジメント業務に対する報酬水準を高く設定し、インセンティブを与えることも必要です。
大事なのは、長時間労働は会社の売上目標と密接に関わるため、その改善を現場に任せていても結果が出ることはなく、社長を中心とする経営層がトップダウンで自ら働きかける必要があるということです。
専門スキルが必要な部署では、業務を個々に任せることが多いため、業務の属人化やダラダラ社員を生み、長時間労働の温床になりがちです。
裁量労働制を採っていても、会社には、従業員の労働時間を把握する義務がありますので、対応協議の場を設けて、業務進捗および労働時間をモニタリングした上で、定期的に、過重労働者のタスク分析、担当者業務の見直し・再配分、人員ヘルプを行うのがよいでしょう。
IT業界は、長時間労働や職場の人間関係(コミュニケーション不足)を原因としてメンタル疾患に陥る社員が出やすい業界です。
社員が疾患になると、会社としても生産性・効率性の低下や安全配慮義務違反に問われるリスクを抱えるため、予防・防止することが大事です。
職場内コミュニケーションが不足しがちで、誰にも相談できずに一人で悩みを抱えてしまいメンタル疾患につながるケースが多く見られます。
そこで、意識的に会話を増やす、産業医・臨床心理士による面談の実施や、場合により会話が増える業務への担当変更など対応メニューを揃えていきましょう。
疾患を理由に休職に至ったとしても、休職からリハビリ勤務や時短勤務を含めた復職へのフローを確立することも、安全衛生面のリスクマネジメントとして重要です。