会社が従業員の残業代を計算するためには、タイムカード等に記録された時間外労働が何時間であるかを正確に把握する必要があります。
このため、割増賃金の未払いを生じさせないためには、会社が労働時間を適正に把握する必要があります。
労働時間の適正把握のため、会社は、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録する必要があります。
この確認・記録の方法として、いわゆる46(ヨンロク)通達(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」平成13年4月6日基発第339号)は、次のものを原則的な確認・記録の方法として示しています。
使用者が、自ら現認することにより確認し、記録する方法
タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録する方法
もっとも、実際の現場では、止むを得ず、従業員の自己申告により、始業・終業時刻を確認・記録しなくてはならないこともあります。この場合でも自己申告制はあいまいな管理になりがちであるため、同通達は、次の措置を講じることを求めています。
自己申告制を導入する前に、その対象者となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
自己申告制により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。
また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
以上の手順に則り、会社は、始業・終業時刻など労働時間を記録した書類を、書類ごとに最後の記載がなされた日から3年間保存する必要があります。
労働基準法上、(1)管理・監督者(同法41条2号)には労働時間に関する規定が適用されず、また、(2)みなし労働時間制(同法38条の2〜38条の4)が適用される従業員は労働時間を把握するのになじみません。
そのことからすると、割増賃金の未払いを生じさせない趣旨からは、これら(1)(2)の従業員の労働時間を把握する必要はないとも思えます。
当事務所の経験としても、管理職であるからという理由で、タイムカードを打刻させない取扱いをされている事業所を多く見かけます。
しかし、これら(1)(2)の者も、安全衛生の観点から、過重な長時間労働を防止する必要があります。前期46通達も、管理・監督者であっても「健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある」としており、管理職の労働時間を把握する責務を会社に課しています。
したがって、管理職であっても、本人の健康、ひいては会社の安全衛生面でのトラブル防止のため、タイムカードを打刻してもらい、従業員の労働時間を適正に把握するように努めましょう。