従業員が仕事をする過程でミスをして会社に損害を与えてしまうことがあります。
この場合、取引先の納品遅れのミスなどと同じように、会社から相手に対して(契約責任または不法行為責任による)損害賠償を請求することができるでしょうか?
基本的には、従業員のミスについても損害賠償の請求を検討すべきです。
ただ、会社は従業員を使用することで利益を上げているのですから、反対に従業員のミスによって会社に損害が生じた場合も、その損害は会社が負担すべきという考え方(報償責任)があり、従業員に責任を負わせることはできない場合があります。
この報償責任の考え方により、仕事をする上で通常生じる程度のミス(軽過失によるミス)によって生じた損害について、従業員は責任を負わず、会社から損害賠償を請求することはできないでしょう。
一方、従業員の故意や重大なミス(重過失)によって会社に損害が生じた場合には、もちろん従業員に責任を追及して損害を償わせることができます。
もっとも、故意や重過失の場合にも、会社の準備の体制や程度によっては、従業員に賠償させる金額が制限される可能性があります。
この点については、「事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損害の分散についての使用者の配慮の程度」その他の事情によってどの程度の額を従業員に負担させるのが公平かという観点から決められるのが一般的です(茨城石炭商事事件 最高裁判決昭和51.7.8)。
以上のように、従業員に損害を償わせることができるミスと、そうではないミスがあり、さらに会社の準備によって賠償額も変わります。
そこで、あらかじめ会社が対策を練り、ミスが起きないようにすることが会社と従業員の双方のリスクマネジメントにとって有益です。
具体的には、職場の安全や労働条件など労働環境を整備すること、過重すぎる労働時間やノルマを見直すこと、適切な報告体制を敷き、また、適切に指導・監督を行うこと、損害の発生に対して人事権の行使によって対処すること、事故の防止策を講じておくこと、こうした点に留意する必要があります。