職務発明とは、従業員が職務上行った発明のことです。
この職務発明がなされるにあたり、権利や報酬等の取扱いを定めて、従業員の研究開発に対するインセンティブを与え、また、会社の研究開発投資を励行することで、従業員と会社との間で利益調整を図りつつ産業の発展を目指すのが職務発明制度です。
2014年にノーベル物理学賞を受賞したことで記憶に新しい中村修二カリフォルニア大教授が、かつて元勤務先の日亜化学工業を相手に起こした訴訟で数百億円の発明対価の支払いが認容されました。
それ以降、同様の訴訟で高額の請求が認められる傾向が続いたため、会社の研究開発投資によるイノベーション促進を妨げないように、職務発明制度を含めて特許法が改正され、平成28年4月1日に施行されました。
具体的な改正の内容としては、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明の特許を受ける権利を発明が発生した時から会社に帰属させることを可能にしつつ、その場合には従業員が相当の利益を受ける権利を有することを規定したことが挙げられます。
①特許を受ける権利を、契約や規則によって、発明時に会社に帰属させるか、それとも従業員に帰属させるかを選択できるようにしたこと、②金銭に限定されていた対価の内容を「相当の利益」に拡大し、金銭以外の経済上の利益についても含めたこと、③相当の利益の合理性について経済産業大臣が公表する指針によって判断できるようにしたことがポイントです。
③の指針は、相当の利益に内容について、次のものを例示しています。
(相当の利益の内容)
会社の費用負担による留学の機会
ストック・オプション
金銭的処遇の向上を伴う昇進・昇格
法定外・所定外の有給休暇
従業員にとって、発明した権利の帰属や報酬等の取扱いは、重要な労働条件のため、会社としては、今回の改正を反映した内容の職務発明規程や就業規則を作成・改訂して対応したいところです。
例えば、職務発明が発明時に会社と従業員のいずれに帰属するか、権利の帰属を安定化させて余計な争いを生じさせないために、会社帰属を選択するのであれば、「職務発明については、その発明が完成した時に、会社が特許を受ける権利を取得する。」などと職務発明規程等に明示することが望ましいでしょう。
職務発明規程等には、相当の利益の内容を決めるための基準と手続についても定めたいところです。
この基準を定める手続としては、会社と従業員(またはその代表者)との間で協議を行った後、その協議によって確定した基準を見やすい場所に書面で掲示、または、イントラネットを用いる等して従業員向けに開示します。
また、具体的に特定の発明について相当の利益を決める際には、その発明をした従業員から意見を聴取する手順を踏んでから個別的な内容が確定します。
既述のとおり、今回の改正によって、柔軟に相当の利益の内容を決めることができるようになりました。裏を返せば、今後は、個々の会社の経営戦略に従って、どのような利益を付与するのかの基準を定める必要があります。
例えば、特定の商品により上場を視野に入れる研究開発型のベンチャー企業であれば、ストックオプションを与えて、成果給の面を色濃く出すことも考えられます。また、製造業では、継続的な発明を促すために、会社の費用負担で留学ができるようにするのもよいでしょう。
また、金銭給付についても、発明時などに一括支払いをする方式によることも、発明による利益貢献に連動した実績補償の方式によることも考えられます。