労働基準に関する行政機関である全国の労働基準監督署には、労働基準監督官が配置されています。
この労働基準監督官には事業場に立ち入り、労働基準関係の法令違反がないかを調査する権限、すなわち臨検を行う権限があります。この臨検により対象事業場の労務リスクがチェックされ、何か問題があれば是正が求められることになります。
臨検は、それが行われる端緒に応じて、次の4種類に分類されます。
各都道府県の労働局や労働基準監督署が、行政上の方針や内部蓄積された情報を元に定める、年度ごとの計画に基づいて行われる調査です。
一般的には、何ら予告なく労働基準監督官が事業場を調査に訪れますが、事前に日程を告げてから訪れるケースや、日時を指定して労働基準監督署へ来庁するように求められるケースもあります。
労働者からの労働基準法違反の告発など、何らかのアクション(申告)があった場合に、その内容を確かめるために行われる調査です。
申告監督では、使用者を労働基準監督署に呼び出して、署内で調査が行われることが多く、申告された法令違反の有無を中心に調査が行われます。
重大な労働災害が発生した時に、その原因究明や再発防止のために行われる調査です。
定期監督等で発見された違反が是正されたかを確認するため、または是正勧告を受けたのに期限までに是正報告書が提出されなかった場合に、再度行われる調査です。
定期監督のケースを中心に述べると、一般には、調査時に次のような書類を事前に準備しておくように求められます。
労働者名簿、人員表等
雇用契約書、労働条件通知書等
賃金台帳(直近3か月分)
出勤簿、タイムカード、残業申請書等(賃金台帳に対応する直近3か月分)
就業規則
労使協定(時間外・休日労働に関する協定届、変形労働時間制に関する協定届など)
時間外労働の特別条項運用記録等の管理資料
定期健康診断個人票(直近のもの)
医師の面接指導の実施記録
衛生委員会の議事録(直近6か月分)
調査の期日が判明した場合には、以上の書類が整備されているかを確認するとともに、書類の中身が法律上の要件を備えているかも確認します。
もし、就業規則の届出を忘れている等、不備があることが分かった場合には、調査時までに届出を済ませておくなど、自ら是正が可能な範囲で是正しておくとよいでしょう。
ただし、間違っても書類に虚偽の記載をしたり、証拠隠滅のような行為をしてはいけません。労働基準監督官には司法警察官として強制捜査の権限がありますので、証拠を収集された上、重大・悪質な違反と捉えられ、最悪の場合、送検されて刑事処分を受けることになってしまいます。
臨検当日は、上記の書類をもとに、主に労働条件、賃金の計算方法、労働時間の管理、健康診断等の安全衛生管理、就業規則等の届出・周知義務を果たしているかのコンプライアンス面が調査されます。
違反等が見つかった場合、労働基準監督官から「是正勧告書」または「指導票」が交付されます。
是正勧告書は、調査において法令違反の事実が確認された場合に交付され、具体的な違反事項、根拠となる法条項、是正期日が記載されます。
また、指導票は、明らかな法令違反ではないものの、改善を図ることが好ましいと労働基準監督官が判断した事項について記載されます。
是正勧告は、法的な強制力をもつ行政処分ではなく、行政サービスの一環としての行政指導にすぎません。
そのことからすれば、是正勧告を受けても任意に是正すればよいというのが一応の建前です。
しかし、是正勧告書は法違反を指摘しているわけですから、無視するなど勧告に従わず重大・悪質と認められた場合は、違反事実について検察庁に送致され(書類送検)、取調べ等の捜査対象となり、刑事処分が課されるおそれがあります。
したがって、是正勧告書によって指定された期日までに法令違反の状態を是正して、内容を是正報告書にまとめて提出・報告するのが経営上適切な対応です。
指導票についても、同様に誠実に対応します。
是正報告書を提出すれば、臨検への対応としてはひとまず終了となります。
しかし、指摘された箇所を直すだけの対症療法では、支店など他の事業所に調査に入られた際に同様の指摘を受け、また、既に是正したはずの適切な運用が時間の経過とともに元に戻ってしまうこともあります。
そこで、臨検を機会に定期的(毎年何月など)に自社で労務管理体制をモニタリングする仕組みを構築することをおすすめします。
実際にモニタリングを行うにあたっては、(1)法定帳簿の調製が適切に行われているか(形式面)、(2)帳簿の内容が法定の要件を満たしているか、また、就業規則等の記載内容が事業所の実態に照らして妥当か(内容面)、(3)就業規則等に定められたルールどおりに現場で運用されているか(運用面)という3つの観点から労務管理体制を点検するのが効果的です。
このモニタリングの内容は片手間でできるようものではありません。
しかし、平時から労務リスクを摘み、土台を固めておくことで、優秀な人材確保・定着、社員の生産性の向上、長時間労働の減少による労務費の削減というような、業績向上につながる人事評価制度や賃金制度等、社員に活気のある組織を作ることが可能になります。