運輸会社である長澤運輸(横浜市西区)を定年退職した後に、有期労働契約を同社と締結して働いている原告が、定年前と仕事の内容は同じなのに、定年後の再雇用で賃金を減らされたのは、有期労働契約と正社員との間の不合理な労働条件の相違を設けることを禁じた労働契約法20条に違反するとして、正社員との賃金の差額等の支払いを求めて提訴したのが本事件です。
この訴えに対して、東京地方裁判所(平成28年5月13日判決)は、正社員と賃金格差を設ける特段の事情は認められず、本件の正社員との間の労働条件の相違は労働契約法20条に違反するとして、正社員との賃金の差額415万円の支払いを会社に命じました。
同法20条は、(1)業務の内容および責任の程度(職務の内容)、(2)職務の内容および配置の変更の範囲、(3)その他の事情を考慮して、(定年後再雇用者などの)有期契約労働者と(正社員などの)無期契約労働者との労働条件に不合理な相違を設けてはならないとしています。
もし、不合理な相違を設け、同法20条に違反すれば、有期契約労働者について定められた労働条件は無効とされ、その代わり、無期契約労働者に適用される労働条件が補充的に有期契約労働者に対しても適用され、賃金の差額分の請求が認められることになります。
本件においては、原告ら定年後再雇用者は、定年の前後で(1)職務の内容は変わらず、また、(2)業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも差異はなく、(3)職務内容に照らし、定年の前後においてその職務遂行能力に有意な差が生じているとは考えにくく、特段の事情もないという事実認定のもとに労働条件に不合理な相違があると結論付けています。
本判決は地裁の判断であるため、この判断が維持されるか、今後の上級審の判決が待たれるところですが、本事件の枠組みは何も定年後の再雇用者にだけ当てはまる話ではないことに注意が必要です。
すなわち、契約社員やパートタイマーなど有期契約労働者と正社員など無期契約労働者との間で、(1)職務の内容、(2)職務の内容および配置の変更の範囲、(3)その他の事情が同じなのに不合理な労働条件の相違があると見られないよう、人事制度の体系と労働条件の全体を一度点検しておく必要があるでしょう。