1年単位の変形労働時間制は、忙しい時期にはたくさん働き、そうでない時期には労働時間を減らすことで、トータルで年間の労働時間を減らすことを目的にした制度です。
原則として、1日の労働時間は8時間まで、1週間の労働時間は40時間までです(法定労働時間)。
しかし、1年単位の変形労働時間制を使うことで、一定期間(1か月間〜1年間)を平均して、1週間あたりの労働時間を40時間以下に抑えれば、あらかじめ定めた日や週について、8時間や40時間を超えて労働させることができるのです(法定労働時間の例外(変形))。
すなわち、時期によって業務に繁閑の差がある会社が、繁忙期に長い労働時間を設定し、一方、閑散期に短い労働時間を設定することで、労働時間をコントロールすることを認めるのが、1年単位の変形労働時間制です。
1年単位の変形労働時間制を導入すれば、企業と働き手の双方にメリットがあります。
企業にとっては、業務の繁閑を把握し、計画的に労働時間を設定できれば、残業代(割増賃金)の削減につながります。
同時に、働き手にとっては、時間外労働や休日労働の減少によって、総労働時間が減少し、ひいては、ワーク・ライフ・バランスの促進につながります。
1年単位の変形労働時間制を導入するメリットが大きいのは、繁忙期の見通しが立ちやすい業種・業務です。具体的には、次のものが挙げられます。
飲食業、タクシー会社(歓送迎会(3月4月)、忘年会(12月)等は繁忙)、小売業(お中元・お歳暮の時期は繁忙)など
製造業(衣服・食料品など季節的商品)、農業など
月末締めの経理業務、締め日が決まっている給与計算業務など
1年単位の変形労働時間制を導入するうえで必要なのは、次の手続です。
労使協定の締結が必要となります。定める内容は、(1)対象労働者の範囲、(2)対象期間・起算日、(3)特定期間、(4)労働日・労働日ごとの労働時間、(5)労使協定の有効期間などです。
いつ何時間の労働をするかの年間計画を決め、別紙・年間カレンダーを作成します(当初、年間カレンダーを作成せず、後日に策定する方法もあります)。
1年単位の変形労働時間制を導入することを、就業規則に規定します(常時10人以上の従業員を使用している会社の場合)。
最後に、上記労使協定と年間カレンダーを、所轄労働基準監督署長への届け出ることが必要です(常時10人以上の従業員を使用している会社の場合は、就業規則の届出も必要)。
1年単位の変形労働時間制を使った場合でも、1日の労働時間の上限は10時間、1週間の労働時間の上限は52時間までです。
また、連続して労働させる日数は、原則として最長6日が限度です。ただし、特に業務が繁忙な期間は、上限が最長12日まで連続して労働させることができる例外があります。
さらに、対象期間が3か月を超える場合は、次の制限が加わります。
対象期間中に、週48時間を超える所定労働時間を設定するのは連続3週以内であること
対象期間を初日から3か月ごとに区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定した週の初日の数が3以内であること
なお、労働日数の限度は、年間280日までという上限もあります。
1年単位の変形労働時間制を導入するには、労働日のカレンダーを決めて労働基準監督署に提出する必要があるため、あらかじめ年間の労働時間のスケジュールを綿密に計画立てることが大事です。
また、変形労働時間制を導入したとしても、一定の時間を超えて労働させた場合に割増賃金の支払い義務が生じることに変わりはないため、やはり労働時間の管理を行うことは大切です。
具体的に、割増賃金の支払いが生じるケースと割増賃金の対象となる時間は、次のとおりです。
1日の法定時間外の労働をするケース
労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日についてはその時間、それ以外の日については8時間を超えて労働した時間
1週の法定時間外の労働をするケース
労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週についてはその時間、それ以外の週については1週40時間を超えて労働した時間
対象期間の法定時間外の労働をするケース
対象期間の法定労働時間総枠(40時間×対象期間の暦日数÷7)を超えて労働した時間
なお、いったん年間カレンダーで決めた労働時間を途中で変更したり、実施中の変形労働時間制を途中で中止したりすることは、認められません。
ごく部分的な労働時間の変更であれば認められることもありますが、このような変更・中止を行うと、労働者の生活リズムに狂いが生じてしまい、また、法定労働時間を超える過酷な労働を絶えず強いられる危険性があるため、認められていないのです。
1年単位の変形労働時間制を導入する際には、様々な手続や管理の手間が生じます。
しかし、上で述べたような業務の繁閑がある業種・業務の場合、年間スケジュールを立てることで事業計画全体のブラッシュアップや人件費削減につながり、また、働き手にとっても就労環境の向上につながりますので、一度、ご自身の会社に適合するかを検討されてみてはいかがでしょうか。