大手の会社では、昔から、従業員にお金を貸し付ける制度がある会社も多いですが、最近では中小の企業でも、以下の理由から、従業員貸付金制度を取り入れるところが増えてきています。
低賃金だが、せめて貸付金制度で福利厚生を図りたい
従業員が消費者金融や闇金からお金を借り、給料債権を差し押さえられるなどのトラブルを回避したい
これらのニーズに対応するために、導入を検討するところも多いようです。
では、実際に従業員貸付を行った会社は、どのような方法で従業員から貸付金を返済してもらうのがよいでしょうか。
現金による返済は、現金を取り扱ったり回収の手間であったりと、何かと大変です。
給料と貸付金を相殺できれば最も効率的ですが、労働基準法第24条1項はそのような相殺を禁止しています。相殺してしまうと、賃金の全額払いの原則に触れてしまうからです。
しかし、現実的には「給料からの天引き」が行われることもあります。
この「給料からの天引き」を正しく行うためには、どのようにすればよいのでしょうか?
原則としては、給料から差し引けるものは、①所得税、住民税、社会保険料などの法令で定められたもの、②労使協定で定められたもの(寮費、共済費、社内預金等)だけです。
したがって、例外的に給料から天引きするためには、毎月の給料、賞与、退職金から天引きする旨を、労働者の過半数で組織する労働組合、またはその過半数を代表する者との間の書面による「労使協定」で、取決めをする必要があります。
また、実際の判定は相当厳格になされますが、従業員の自由意思に基づいて「個別の合意」が成立していたときにも、貸付金の給料天引きが認められることがあります。
以上のとおり、正しい手続をとれば、給料から貸付金の返済額を天引きすることも可能です。
しかし、貸付金を給料から天引きできるからといって、全額の天引きはできないことに注意が必要です。
具体的には、給与額の4分の1に相当する額までしか天引きすることができません(ただし、4分の1に相当する額が11万円以上になる場合には、11万円以上の額を全額天引きできます)。
これは、たとえ労使協定により天引きする金額に上限を設けていなかった場合でも同じです。
消費者金融や闇金からお金を借りるより、会社から借りるほうが従業員にとっても安心ですので、従業員貸付制度は、働き手にとってはありがたい制度です。
特に若い従業員が多い企業では、当面の生活費を会社から工面したいニーズが潜んでいる場合がありますので、以上の理解を前提に、貸付金制度の整備を検討されることも一案でしょう。